日本語教師と就職活動 (就活)
現在、世は空前の資格ブームであるという。日本語教育能力検定試験もそのブームの一環として、受験者にはその意識で受験する人が多いのであろう。しかし、この資格を得て、就職活動(就活)に役立てたいという人には、その困難さを認識していただきたい。
日本語が話せない外国人に日本語を教えることは、日本語が話せる日本の小中学生に日本語を教えることより、はるかに難しい。したがって、一般に、仕事として食える日本語教師になるより、小・中学校や高校で国語を教える先生になるほうが簡単で、就職できる確立が高いといえよう。日本語教育能力検定試験の合格という資格だけでは、日本語教師は務まらない。日本語が話せるからといって、日本語教師になれるものではないのだ。
日本語教師になるには、きちんとした教育機関で、それなりの先生方に、それなりの時間をかけて教えてもらうしかない。したがって、試験に合格したと言うだけでは、日本語教師は務まらない。実際に日本語教師となるには、日本語教師としての教育を受け、基礎的な知識を身に付けたうえで、教育実習を受け、教案作成や教材作成などの実技や的確な教授法をとり入れた教育実技をこなせなくてはならない。したがって、日本語教育能力検定試験の合格という資格を持っているからといって採用してくれるところは、ほとんどないのだ。ボランティアとしての日本語教師ならば、越谷にほんご勉強会でも、ご協力をお願いしている。しかし、ここでは費用が持出しになることはあっても、報酬はまったく出ない。
ある日本語教師求人募集の広告を見て驚いた。それは、オーストラリアで日本語教師として勤める内容の広告であった。よく見ると、日本語をオーストラリアで教えるが、給料をもらうのではなくて、かえって、費用を負担して日本語教師としての実技を行い、そこに満足感や充実感を得るという内容のものであった。これでは、就職としての採用ではない。この企画は、旅行会社が行っているものであった。旅費交通費、滞在宿泊費を負担して、日本語を教え、その費用を支払う。まことに恐れ入った。
日本語教師としての知識や実技を覚えるのには、日本語教師養成講座420時間(受講資格は4年生大学卒以上、または、それと同等以上の学力を有すること)などでの教育を受けるという方法もある。しかし、これも資格として実際に世に認知されているかといえば、そうでもない。これには、営利事業としての株式会社やカルチャーセンターや私立大学などが運営している日本教師養成講座がある。そして、これにより毎年輩出される日本語教師養成講座420時間の修了者は日本全国で相当の数に登る。また、教育機関によって、講師陣や講習内容の質及び量がまちまちであり、この講習420時間修了者が社会的に日本語教師の能力があると一般的に認知されるのには、無理がある。
よって、日本語教育能力検定試験や日本語教師養成講座420時間の修了者が、日本語教師を職業として、それで食べて行くには、相当の困難がある。新聞の求人欄や職安の求職サイトをご覧になっていただければわかるが、一般に日本語教師の正職員としての採用はほとんどない。たまにあるとすると夏休み中などの短期アルバイトか、パートタイマーである。これでは、ワーキングプアを地で行くことになるであろう。男性が日本語教師として食べていくには、相当の困難があると、受講生にアドバイスしている日本語教師養成講座の講師陣は良心的なほうである。
これからプロの日本語教師として食べていくには、きちんとした大学院で、専門の教育を受け、教育実技や教案作成などをしっかりと実習し、大学の研究職としての研鑚を積むぐらいに勉強しなければ無理であろう。毎年、大学院修了者の日本語教師志望者ですら、日本全国では相当数に登る。そして、労働市場では、既に日本語教師は供給過剰であり、その新人への求人は、ほとんどないのだ。
おとりやダーミーの日本語教師の求人募集はある。就職面接に行ったところ、経験がないとダメと言われ、日本語教師としての経験を積むなら海外でどうぞと言われるような、勧誘の手口である。経験者によると、多くの場合、高い旅費交通費と宿泊滞在費を支払わせされ、ワーキングビザではなく観光ビザで行く、いわば「日本語教師体験ツアー」であったりするという。また、ワーキングビザで行ったとしても、現地での報酬が安いため、往復の航空機代などで、費用が持ち出しになるという。
そして、むやみに求人に応募していくと、思わぬ陥穽(かんせい)に嵌(はま)る危険があるという。これは、ある大学院の女性教授が、女性の日本語教師志望者にアドバイスしていた内容である。女性の教授ともなると、いろいろな人生相談にも対応してくれているのだろう。経験豊かな人生の先達のアドバイスである。これが、日本語教師という職業を取り巻く現状であり、就職活動の困難さである。
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