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異文化の様相(1) 公衆便所・その3

日本語では、便所の表現に古来より様々な言葉が使われてきた。例えば、洗面所、御不浄(ごふじょう)、はばかり、雪隠(せっちん)、厠(かわや)、便所、お手洗い、化粧室、WC、パウダー・ルーム、トイレット、トイレ、などである。この内、トイレやトイレット、パウダー・ルーム、化粧室、お手洗い、洗面所、御不浄、はばかり、雪隠などは、便所というストレートな表現を遠回しに言い表すために、工夫されて使われてきたのだろうか。現在では、外来語から来たトイレが最もポピュラーな表現のように思う。

西欧の代表的な言語、英語でも、ホテルや劇場などの便所のことを遠回しに “REST ROOM” と表現した言葉が使われることがある(ジーニアス英和辞典、大修館書店)。また、洗面所のことを “BATHROOM“とも言う。そして、トイレに行きたいということを、”Nature is calling to me.”などと表現したりする。

この遠回し表現に倣(なら)ってか、外国人の観光客も多い日本の有名観光地、奥日光でも、竜頭の滝の入り口駐車場にあるトイレには、その外壁に“REST ROOM”と表現されている。もちろん、そこは休憩所ではなく、公衆便所なのである。

また、英会話表現で、「トイレはどこでしょうか、トイレをお借りしたいのですが」と言う場合に “I’ve got to go.”  Excuse me, but where can I go? という様に、トイレを明示する言葉を省いた遠回し表現が使われることがある(参照:ジーニアス和英辞典、大修館書店)。

一方、日本語でも、大小便をすることを「用を足す」や「用足しに行く」と遠回しに表現することがある。そして、ハイキングや登山などでは、女性が大自然の中で大小便をすることを、一般に「花を摘む」や「花摘みに行く」などと遠回しに表現したりする。

これは、本来は小便をすることを意味していたのだろうが、女性の用を足す姿からは、大なのか小なのかは判然としない。したがって、大便、小便のいずれの場合も「花を摘む」となったのであろう。また、この方が、自然負荷が大きい大便の場合でも、それを明示しないことで、その恥ずかしさが和らぐのだろう。ちょっと、尾籠(びろう)で臭い話ではあるが・・・。

そして、休憩の時などに、「ちょっと、お花を摘んできま~ス」などのように表現して、岩陰やハイマツ帯の藪(やぶ)の中に分け入ったりする。すると、これを知らない登山の初心者などは、高山植物の花を摘んだりするのはけしからん、と誤解したりすることがあるのだ。

Akkiiも、登山でリーダーを務めていた際に、「こんな所で高山植物の花を摘んで良いのですか」と、その山行に参加していた初心者から訊(き)かれたことがある。その目には明らかに、何で「花を摘んできま~ス」と言うのに、リーダーが注意しないのだ、という批判の光があった。高山植物は保護しなければならないのはもっともだが、実際に「花を摘む」訳ではないのだ。

また、ハイキングや登山中の男性の場合は、小便をすることを「小雉(こきじ)を撃つ」と言ったりする。これは、男性の一物(いちもつ)をキジ撃ちの鉄砲に見立てた、ユーモアを交えての遠回し表現である。一方、大便をすることを「大雉(おおきじ)を撃つ」と言ったり、単に「雉を撃つ」や「雉撃ちに行く」と言ったりする。

それは、「ちょっと、大雉を撃ちたいので先に行っていてください」などのように表現するのだ。こういう場合には、その臭いから逃(のが)れるため、少し先に進んで待つことにする。

なお、大便のことを「糞(くそ)」とも言うが、これをストレートに、「糞(くそ)をしたいので先に行ってください」と表現されては、目に見えるようで臭すぎる。これよりは、先の「大雉を撃ちたい」は、遥かに柔らかく感じる遠回し表現だ。これらの遠回し表現は、アウトドア・アクティビティーのテクニカルタームと言えるだろうか。

以上のことから考えると、洋の東西を問わず、一部には便所や大小便をすることをストレートに表現することが、「はばかられる」という文化がある、ということなのだろうか。面白い現象である。

ところで、日本人男性の街角での立小便は、欧米圏からは奇異に見られて、野蛮人の姿であると捉えられたりしている。また、一般に、日本人は男女を問わず、野山で平気で用を足すことができるが、欧米人は、これを極端に我慢する。

特にハイキングや登山に参加した欧米人の女性の場合は我慢する。本人には凄く苦しいだろうが、トイレのあるところまで我慢するのである。これには驚くばかりだ。文化の違いなのであろう。まさに異文化の様相である。

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