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世界旅行のための地球の科学 (その5)

海外旅行をしていると、「百聞は一見に如かず(ひゃくぶんはいっけにしかず)」という言葉が髣髴(ほうふつ)とされる情景や景観に遭遇することがある。それらから得られるのは、テレビの映像や写真集や文献などを見ただけでは、想像すらできない体で感じる驚愕であり、興奮である。これを言葉で語り尽そうとしても、尽くせるものではない。現実に観てみないと分からない。

それは、ベートーベンの「運命」や、ビゼーの「ファランドール」やドボルザークの「新世界より」を聴いていて、大太鼓を始めとする打楽器の響きが身体中に振動し、五感が心理的のみならず物理的にも共鳴するような驚愕であり、興奮である。

例えば、アメリカのグランド・キャニオンやカナダのナイアガラの滝やその滝底を現実に観たときであった。また、アイスフィールド・パークウエイをカルガリー空港で借りたレンタカーで走りながら、残雪を抱くカナディアン・ロッキーの峰々を観たときであった。そして、中国で万里の長城に上り、遥か遠くまで続いている石造りの塀の上をしばらく歩いてみたときであった。さらに、太平洋戦争中に日本軍が敷設したというタイのカンチャナブリーのクワイ川に架かる、泰緬鉄道(たいめんてつどう)の木造橋梁の線路上を歩き、谷底を見たときなどであった。

自然の造形作用は、人の想像を絶する。地球では、大地をえぐる侵食作用や山脈を造る造山活動、川が運ぶ大量の土砂の堆積とその流失が活発である。初めてグランド・キャニオンのリムに立ち、遥か遠くまで、コロラド川に流れ込む水の浸食作用で作られた赤茶けた岩稜を眺めたとき、総毛立った。映画では、アメリカインディアンと開拓者の戦いなどで、よく見た光景のグランド・キャニオンであるが、聞くのと見るのとは大違いではなくて、見るのと観るのとの大違いであった。英語では、パノラミック・ワンダー(panoramic wonder)という言葉があるが、まさにこれだ。

また、カナダのトロント空港からレンタカーを走らせ、ナイアガラ滝の直ぐ傍で、滝のしぶきを浴びながら滝の川面を眺め、その地響きと風圧が一緒になったような滝の振動に身体が共鳴したとき、身の毛がよだった。ここの滝は、大台ケ原から大杉谷をハイキングしたときに見たコバルトブルーの水がはじける滝や、熊野古道を歩いたとき見た那智ノ滝や日光観光でよく立ち寄る華厳ノ滝などとは全然違う。ナイアガラ滝は、日本語の「滝」の語感から遥かに逸脱しているのだ。スケールの大きさが全く違うのだ。

ところで、ヒトも自然界に生きる生物の一つであるという。国際的に生物多様性を保護し、維持する運動が盛んであるが、大西洋や地中海の黒マグロ同様、ヒトも種を維持するために努力しなければ絶滅は免れないだろう。今、ヒトが自然界に負荷を掛けすぎていることが問題となっているのだ。その負荷に対する地球の許容量にも限度がある。地下資源も無尽蔵ではない。大気も有限だ。

日本の自然界ではトキが絶滅し、現在、佐渡トキ保護センターで中国から譲り受けたトキを人工繁殖させ、日本の自然界にトキを放鳥する計画が遂行されている。最近のニュースでは、このトキも自然順化を試みるケージの中で、天敵のテンに襲われ、ケージの中にいた11羽のうちの9羽が死に、1羽が瀕死の状態であるという。

外敵対策は、生物の生死に関わる問題だ。ヒトの外敵対策は主権国家である場合、安全保障という言葉で語られる。歴史的には、その評価の当否を別にして述べれば、ヒトという生物種の外敵対策の努力の一つとして、中国に万里の長城が造られ、タイとビルマ間に泰緬鉄道が敷設されたと見ることもできる。

ヨーロッパ観光でライン川沿いの古城などを訪ねると、戦いに負けた隣国人の捕虜を奴隷として閉じ込めていた檻が至る所にある。同じ白人でありながら、戦勝国側は敗戦国側の住民を奴隷として使っていたのだ。足に重しと鉄鎖を付けて、檻に繋いでいたことも記録されている。ヒトを牛馬の如く繋いで、使役させていたのだ。日本では既に江戸時代の中頃の時期であっても、ヨーロッパでは未だこんな残虐行為が行われていたのだ。そんなに古い時代の話ではない。そして、これがアフリカの民族を苦しめた奴隷貿易や奴隷制度の素地となっていたことが分かる。海外の観光を通して、世界には、日本の歴史や社会や文化を当てはめて考えただけでは、想像もできないような現実があることが分かるのだ。

動物の生存競争は厳しい。自由と平和と安全は、ヒトという生物種にとって永遠の課題だ。海外旅行では、百聞は一見に如かず、という場面に多く出くわす。そして、その感動は若いうちに受けていたほうがいいだろう。世界観が変わり、人生観が変るかも知れない。より良い方向にである。日本人は、機会があれば、どんどん海外に出かけて行くべきだ。世界の若者が、海外の観光を楽しんでいる。バックパックを背負って、旅行先で親しくなって友人を作り、一緒に旅行を楽しんでいる光景によく出くわす。日本人にとって、日本円が各国通貨に対して強くなった今が、海外旅行のチャンスである。

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受信: 2010年3月18日 (木) 08時14分

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