国会での詐偽投票は憲法違反だ
日本国憲法は、国会での定足数や表決数を厳格に定めている。したがって、本人が議事に臨んでいないのに臨んでいることにしたり、他人になり代わって表決に参加したりすることは、憲法違反であると考えられる。
この憲法違反である疑いが濃厚な行為が、参議院本会議であったらしい。それは、参議院議員の一人が、本会議の議事の採決で、隣席の議員が途中退座したのをいいことに、その隣席の議員になりかわって投票ボタンを押し、賛否を投じたというのである。しかも、法案9件とNHK予算承認の合計10件にも及んで投票ボタンを押したという。
公職選挙法では、他人になりすまして投票することを、厳罰をもって禁じている。2年以下の禁固刑が科される場合がある。このなりすます行為を「詐偽投票」という。「詐偽投票」が関係当局に発覚したら、まず間違いなく逮捕されるだろう。これとの対比から、公職選挙法で選挙の公正さを担保されて選出された国会議員が、参議院本会議で「詐偽投票」する行為も、重大な犯罪行為である。
ところが、この「詐偽投票」につき、実行行為者本人の議員辞職だけで無罪放免にする動きがある。これでは、公職選挙法が「詐偽投票」を厳罰をもって禁じていることとの権衡を失する。この「詐偽投票」の実行行為者は、自民党の元農林水産大臣の若林正俊氏だ。そして、なりすまされた側は、同じく自民党の前参議院議員会長の青木幹雄氏だ。
ここで疑問なのは、なりすまされた側の青木氏が、合計10件もの議事の採決の間、席を離れていながら、長時間に渡り、「氏名標」といわれる立て札を空席に立てっぱなしにしていた件である。この「氏名標」を立てることによって、投票ボタンを押すことが可能になるというのだ。これでは、青木氏は議事に臨んでいないのに関わらず、議事に臨んでいることにカウントされたことだろう。ここにも憲法違反の疑いがある。また、これが誘引となり、若林氏が「詐偽投票」をしやすくなったと考えられるのだ。
この問題については、過去に類似の行為が行われていなかったどうかを含め、まず参議院の内部で検証すべきだ。若林正俊氏の行為の安易さから考え、常態的にこの「詐偽投票」が行われていた疑念も残る。場合によっては、関連法令を検討して告発し、若林氏を逮捕して、共犯関係も含め、取り調べる必要も出てくるだろう。また、青木幹雄氏の行為も糾弾されるべきだろう。
日本国憲法の規定上、国会の採決では、議事に参加している議員本人が投票することが求められ、これを代理投票することはできないと考えられる。したがって、代理権の授与があったかどうかは、論外である。
そして、本件は、行為者本人の議員辞職だけで終止符を打つのではなく、辞職届を不受理とし、除名処分決議を行い、国会としての自浄能力を発揮すべきだ。また、これには、与党の民主党をはじめ社民党や国民新党、そして、野党の公明党や共産党なども、自らの襟を正すという観点からも、事実を糾明し、一罰百戒の範を示すべきである。日本は法治国家である。国会議員の重大な憲法違反行為をみすみす見逃してはならない。
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