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TPPを主導するかの超大国のスタンスを考える上で

過去に他のブログにUPしたTPPを主導するかの超大国のスタンスを考える上での参考になる2点の文献紹介の記事が、日時の経過と共に埋没してしまっている。そこで、再度これを掘り起こし、ここにUPすることにした。時の経過と共に、記載事実が一部変わっているかも知れない。しかし、今、野田政権が進めようとしているTPPにおける日本の主張の脆弱性とかの超大国のスタンスを考える上で、次に述べる文献2点は、非常に参考になると思う。

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新書版として発行されながら、学術書としても使え、凄くインパクトの強い内容の文献2点をここに紹介する。これら文献は、日本が世界の中に置かれている立場を考えるため、そして、その置かれた窮状の打開策を考えるために、たいへん参考になる文献である。

日本は、かの超大国の泥舟に同乗していては、一緒に沈没し、国民は溺死してしまう恐れがある。これは、日本が、かの超大国の同盟国として、国防や安全保障の点でも、かの超大国に大きく傾斜、依存し、また、経済政策や社会政策の点でも、日本の国情をかの超大国の国情と一致させるべく共同歩調をとっているように見えるからだ。

かの超大国がいいと主張し、提唱する経済システムは、今やほとんどが機能不全状態である。そして、かの超大国では、金融工学博士なる、まやかしの理論構築者が跋扈するウォール・ストリートは、今や心不全状態である。自然科学の世界には「エネルギー不変の法則」というのがある。しかし、経済システムでは、これを否定しているかのようである。デリバティブ取引や商品先物取引で、存在しない貨幣価値を作り出し、それに見合った資金流通量を市場に供給する。そして「投資」と称する「投機」を煽る。そんなことをしていたら、いずれ経済は破綻し、世界は大不況にみまわれるであろう。最後にババを引くのは誰であろうか。国土が狭く、資源に恵まれない日本などが一番の被害者になるのではないか。

かの超大国では、ニューヨークのマーカンタイル取引所で、テキサス地域で取れる中質油であるWTIの先物取引に、実際の産出日量の100倍を超える架空取引を行わせ、これが世界の原油市場の取引価格の指標となり、世界的バブルを煽っているように見える。また、例えば競馬の勝ち馬の出る確率に掛けるみたいな、実際の勝敗からかけ離れた、つまり、派生したゲームを作り出し、これを「デリバティブ取引」なる、さも合法化されたシステムであるかのように主唱して、投機目的物を作り出すなど、架空世界の取引を、さも実体的な取引であるかのごとく仮装し、煽っているように見える。これらの取引は、一世代前から考えれば、詐欺罪などの犯罪構成要件を充足する内容に思える。これらが、なぜ、犯罪でなくなってしまったのであろうか。

世界的な原油高騰や食料高騰の中で、また、かの超大国が震源地となっているサブプライム問題やバブル崩壊の景況悪化の中で、かの超大国の泥舟に同乗していて、一緒に沈没するのを已むなしとしていてよいのであろうか。

日米構造協議や日米経済協議などを通して、かの超大国から日本に突きつけられた様々な要求により、日本は、固有の伝統や文化、社会構造や人的関係までもが、ずたずたにされ、経済システムのみならず、頻発する無差別殺傷事件などの凶悪事件に象徴されるように社会システムまでもが、ずたずたに切り裂かれ、破壊されているように思えるのだ。これは、かの超大国が主張するグローバル・スタンダードという価値観が、日本の伝統や文化を破壊し、日本の安定していた繁栄と平和を基礎から突き崩していると考えるからだ。

日本政府は、この超大国の要求に対して、それに沿うべく様々な努力をしてきた。それは、あたかもかの超大国の主張や要求がまるで金科玉条であるかのごとくに、また、その主張に対する日本の国家としての意地をかなぐり捨てたがごとくに、唯々諾々(いいだくだく)として追従しているように見えるのだ。

後記(1)の文献は、これに関し、アメリカが日本に突きつけた様々な要求を、アメリカで公開された公文書で検証しながら、「アメリカの日本改造が進んでいる」と表現している。そして、その要求の背景にある、かの超大国のロビイスト(政治圧力団体)や、その目論見をも解析している。

そして、東西冷戦の終結後、かの超大国の外交姿勢に対しては、世界の多くの国際政治学者から、単独行動主義である、とか、一国行動主義であるとの批判がなされている。この単独行動主義は、かの超大国の世界戦略の帰結である。

後記(2)の文献は、これに関し、サブタイトルを「戦争はどう利用されるのか」として、かの超大国が戦争を仕掛ける動機やプロセスなどにもメスを入れ、解析している。

(1)           2004年4月 『拒否できない日本(アメリカの日本改造が進んでいる)』 

関岡英之 著、文春新書、\700(税別)、文芸春秋社

この本のカバーの袖には、次のように書かれている。

―――建築基準法の改正や半世紀ぶりの商法大改正、公正取引委員会の規制強化、弁護士業の自由化や様々な司法改革・・・・。
これらはすべてアメリカ政府が彼らの国益のために日本政府に要求して実現させたもので、アメリカの公文書には実に率直にそう明記されている。近年の日米関係のこの不可解なメカニズムのルーツを探り、様々な分野で日本がアメリカに都合のいい社会に変えられて来た経緯を、アメリカの公文書に則して明快平易に描く。――― 

著者の関岡英之氏は、異色の経歴を持つ。この本では、大学法学部を卒業後、銀行で国際金融取引などをした知識と経験を踏まえ、また、その後、大学院で建築に関する工学を研究した学識と経験を踏まえて、明快で言葉巧みな表現により、日本の置かれた立場を検証し、解析している。現在は、評論家として活躍し、大学客員教授をしている。

(2) 2008年3月 『アメリカの世界戦略(戦争はどう利用されるのか)』

菅 英輝 著、中公新書、\70(税別)、中央公論新社

この本のカバーの袖には、次のように書かれている。

―――2003年3月、ブッシュ政権は対イラク戦争に踏み切った。世界の平和と安全を説く国がなぜ先制攻撃を仕掛けるのか。そこには、冷戦終結後、EUと中国の挑戦を受けるなか、圧倒的な経済力と軍事力をもとに世界一極支配を目指すアメリカの戦略がある。本書では朝鮮戦争からヴェトナム戦争、そして「ブッシュの戦争」に至るアメリカ式戦争の特徴と問題点を、政策決定者たちの証言を交えて分析し、「帝国」の今後を展望する。―――

この本の著者、菅 英輝氏は大学教授である。この文献は正規の学術論文としての体裁をとっているため、表現が難解に感じられる部分もあるかも知れない。しかし、この文献は、目次を見て、興味を持てるタイトルの章から読み進めると、分かりやすいであろう。巻末の「アメリカの戦争」という関連年表も参考にしたい。

これらの文献は、新書版であり、廉価であるうえ、ボリュームも少ないが、それぞれが名著であり、学術書である。日本の今を取り巻く安全保障問題や国際間の経済問題などの世界情勢を考えるうえでも、ぜひ、読んで参考にしていだだきたいと思う。

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野田政権の100年目の関税自主権放棄

「野田首相は、TPPを声高に主張し、関税を撤廃して日本を開くといっている。しかし、日本は、天然資源が乏しく、食料自給率がカロリーベースで約40%しかないのだ。食料の多くを海外に依存している日本が、関税を撤廃したならば、その影響は農業どころか、全ての一次産業に及ぶであろう。野田政権は、食の安全や食料安全保障の問題を全くないがしろにしているように感じる。」

冒頭の文は、菅内閣の時分に、TPP参加問題に関し、他のブログにUPした記事の冒頭を「菅首相」から「野田首相」に改めただけのものである。

さらに同ブログで述べた内容を反復する。

「TPPが実施されれば、まず日本の農業が各地で立ち行かなくなり、食料自給率は大幅に低下する。そして、各地で伝承されてきた農業技術が消失する。その後、TPPは失敗だったなどとして、農業を再生させようとしても、失われた技術は回復不能となるだろう。」

「また、日本の各地で水田がなくなり、河川の治水問題にも深刻な影響を与えるであろう。雪解け水で水位が上がる河川をどのようにコントロールするのか。日本の農業が崩壊すれば、日本の自然に大きな負荷を与えてしまうことが危惧されるのだ。そして、せっかく人工増殖により自然界に放鳥された特別天然記念物のトキも、自然界で自生することが困難になることであろう。日本の自然は、日本の農業と一体になって維持されてきたのだ。」

菅直人氏を野田佳彦氏に変えて、さらに続ける。

「今の野田佳彦氏が率いる民主党を中心とする政権は、日本を滅ぼそうとしているのだろうか。日本の領海から境界線をなくし、日本の国家としての枠組みである社会的、経済的基盤の境界をも、海外との間で溶解させようとしているように思える。国家が他国との境界をなくして、国家主権を守れるはずがない。」

「TPPを実施したら、日本の内需は大きく低迷するだろう。野田政権は、こんな自明のことが読めないのだろうか。農林水産業や商工業を含め、それに従事する個人や零細な事業者などが、大きな打撃を受けてしまうだろう。特に農林水産業は、壊滅的打撃を受けるだろう。」

「農林水産業には、個別的に手当てすればいいだろうなどと言うのは、絵に描いた餅だ。日本の農山村や漁村を訪ねてみれば分かるが、いたるところで経済格差が広がり、疲弊している。ここにじゃぶじゃぶと海外から安い農産物や海産品が供給されたとしたら、日本を支えてきた各地の集落が崩壊してしまうだろう。」

日本の関税自主権は、日本が江戸時代末期から明治時代にかけて、西欧列強に強行に開国を促されてから締結させられた不平等条約の改定の過程で、苦労して獲得した歴史がある。歴史年表では、1911年にやっと米国を相手に日本の関税自主権が確立したことになっている(参照:『読むだけですっきりわかる日本史』・「関税自主権の回復」、P282、宝島社、2008年6月発行、\476<税別>)。

ところが、そのちょうど100年後の2011年に、関税自主権の放棄ともとれるTPP参加を野田政権は、国民に十分な情報開示や説明もしないで、強行しようと画策しているようだ。相手国としては、貿易品目の種別や貿易量からして、特にアメリカが意識されているようだ。

しかし、日本は国家として、自国の繁栄と安定に心を砕くべきだ。まさに政府は、このことを目標に頑張らねばならないだろう。今の日本は、内需拡大にエネルギーを注いで、好循環の景気循環を図るべきなのだ。その中で、雇用が生まれ、働く者に賃金が支払われれば、それが消費活動に回る、というように国家の経済活動を内需型にしていくべきだ。この努力なくして、日本の経済再生の道はないであろう。

政治は、財界や経済界を説得できる力、そして、指導できる力を持つべきだ。一部の財界や経済界の要望に応え、外国に対して関税自主権を放棄したり、国境線や経済水域の譲歩と引き換えたりして、貿易の拡大を求めるなどの愚は、絶対にしてはならない。関税自主権の獲得100年目にして、この関税自主権の放棄と同様の事態を招く懸念があるTPP参加は、日本の国力の衰退を招くと危惧されるのだ。

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